こちらでは将来起こりうる災害に備え、企業が考えるべき災害レジリエンスについて解説。災害レジリエンスとはどのようなものか、実際の事例を踏まえながら、どのような対策を講じるべきかを紹介していきます。ぜひ知識を深めてください。
聞きなれない方もまだまだ多いことと思われますが、災害レジリエンスとは英語の“Resilience”に由来し、簡単に言えば「災害が起きた場合でも、可及的速やかに復興できる力」ということになります。
そもそも大地震や豪雨による浸水といった自然災害は、発生を阻止することは不可能です。それゆえ、そうした災害が起きた場合に、どのように対応すべきかを予め考えておくことが重要です。 対応力を大きく分けると、予防策(予防力)、順応策(順応力)、転換策(転換力)の3つの要素から成っています。
予防策とは文字通り、災害が起きた際に被る被害をより小さくするための準備のこと。例えば、豪雨によって堤防決壊の可能性がある場合、補強工事を行うといったことが該当します。
順応策とは、深刻なダメージを防ぐための方策で、例えば堤防決壊の可能性が大きく高まった際に、避難場所への避難を直ちに行うということ。
そして転換策とは、実際に堤防決壊が起きてしまった際に、高台移転など抜本的な見直しを行うということを意味します。
ここからは、日本政策投資銀行 九州支店がまとめた、2016年に発生した熊本地震に関する調査結果をご紹介していきたいと思います。熊本地震で実際に被災した企業を対象として行われたアンケートやヒアリング調査をまとめ分析した結果をご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
改めて申し上げるまでもなく、2016年に発生した熊本地震では、震源地を中心としたエリアで様々な被害やダメージなどがもたらされることになりました。
ライフラインや交通インフラの機能不全、企業の生産や販売活動の縮小や停滞などの問題が発生した一方、九州をはじめ全国各地からの部的支援、人的支援の提供により、比較的早期の復旧が実現したという結果となっています。
今回の日本政策投資銀行 九州支店による調査では、熊本を筆頭とした九州エリアにおいて、企業実績があり、なおかつサプライチェーンも構成しているという条件に合致した、自動車関連企業ならびに半導体関連企業を調査の対象業種としています。
調査期間は2016年9月5日から9月27日にかけて。回答企業数は343社で、回収率は22%であったとのことです。
今回実施したアンケートの結果、災害における事前の対策レベルとして、BCPを策定していた企業の割合はおよそ3割弱にとどまっていたという結果が出ています。
逆に災害の際にどのように事業を継続させるかを策定していない企業は7割に及んでいるとのこと。
なおBCPとは「企業の事業継続マネジメント」のこと。BCPの策定に加え、訓練などで運営改善を行ったり、バックアップ設備の充実なども行うことを総称したBCMと呼んでいます。
ちなみにBCP策定を行っており、なおかつ訓練を通じた内容改善を行っている企業は全体の6%。バックアップ施設の整備といったことまで行っている企業は4%にとどまっているという結果も出ています。
さらには、BCPの策定率は従業員数によって大きく左右されており、従業員数50名以下の企業では1割まで低下するのに対し、従業員数1,000人超の企業では7割に上昇。企業規模が大きいほど、災害の対策レベルが向上するという傾向があることが明らかになっています。
熊本地震における企業の生産や販売活動の縮小・停滞は、サプライチェーンが被災したことによって負の連鎖が影響するという要因も大きいという結果が出ています。
例えば供給元(下流企業)が被災した場合、マイナス影響を受けたのは35%を占め、調達企業(上流企業)の被災となるとマイナス影響は48%まで跳ね上がるという結果が出ています。
ちなみに自社工場の被災がマイナス影響を及ぼしたという回答は27%。流通網の寸断がマイナス要因という回答は12%に留まっているとのこと。
こうしたことからも、現代の自動車や半導体関連の企業は、部品や原材料の調達、供給を複数の企業で担うサプライチェーンの構造が大きく関与しており、その構造が災害によって滞ると、生産全体の低下を招くことが、改めて証明されたカタチとなっています。
上記の調査結果によると、そもそもBCPを実践している企業は少数派であり、一定の規模をもつ企業に限られているのが実情であると明らかになりました。
またそれに関連し、BCPを実践している企業ほど、その有効性を評価しているという結果も出ています。
実際、熊本地震への対応に関して、BCPを策定・実践している企業の約7割がその有効性を実感したと回答しています。
一方、防災計画のみ策定の企業では、有効性への評価は4割に留まっています。BCPの策定と実践は、震災対応として有効であることを改めて示す結果となっています。
今回の調査で明らかになった通り、そもそもBCMというものは、まだ一部の大手企業が策定・実践しているに過ぎないというのが現状。
今後、企業の災害レジリエンスを強化していくには、BCMそのものに対する理解や知名度を深めた上で、策定を実践する企業を増やしていくことが重要であると言えるでしょう。
言うまでもなくBCMは単に策定すればいいというものではありません。それこそ実際に災害が発生した際に実践できなければ何の意味もないのです。
それゆえ、本番で効果を発揮するための「演習」が、大きな意味を持ってきます。状況に応じ、どのような手段をそのような手順で行うかを反復して訓練することが重要です
前述した通り、災害によってひとつの企業が被災すると、サプライチェーン全体に悪影響を及ぼすことになるというのは自明の真理となっています。サプライチェーン同士が実効的に連携するためには、1社のひとりよがりではなく、企業間でじっくりと協議を重ね、お互いの顔が見合える関係を築くことが重要になってきます。
2016年の熊本地震は、企業の災害レジリエンスに対する貴重な教訓、とりわけBCM・BCPの重要性と有効性を示したと言えるでしょう。同時に、そのメリットを得られたのは、BCM・BCPに関する知識を有していて、着実に実践できた一部の企業に限られていたという点も然り。
以上のことから、今後企業の災害レジリエンスを向上させるには、BCM・BCPをより多くの企業に浸透させ、策定をしっかりと行い、いざという時に実践できるように演習を繰り返しておくことが重要になってきます。ぜひ、心しておいてください。
本ページで取り上げている熊本地震のケースのように、災害レジリエンスを含めた防災マネジメントを向上させるには、正しい災害情報を得られるかどうかが、重要な鍵となってきます。それこそ報道機関からの災害情報だけに依存するのは、企業の資産保護や事業継続を実践するには心もとないというのが正直なところ。
万一大規模災害が発生した場合に備え、独自に迅速な災害情報を取得することができる、災害情報システムの導入を検討されてはいかがでしょうか。とりわけ店舗や工場、サプライチェーンの状況の正確な把握など、正確性とピンポイントさを重視した「事業継続」向けのシステムは、検討する価値ありと言えるでしょう。