日本は地震大国であり東日本大震災や熊本大地震などの記憶も新しいところです。ひと度そうした大規模地震に見舞われると、ビジネスが被るダメージは多岐に渡ります。そうした被害を軽減するために、オフィスや企業が行うべきなのがBCP(事業継続)対策に他なりません。
2011年に発生した東日本大震災の発生後、2012年に東京消防庁が実施した調査によると、震災前にオフィス家具の転倒防止対策を行っていた事業所は56%と過半数を上回っていたとのこと。一方していなかった事業所に理由を尋ねると、手間やコストの問題に加え、オフィス家具が転倒しない、転倒しても危険はないという、危険性を認知していない層が過半数を上回っていたとのこと。
実際に東日本大震災の揺れを経験したのち、震災前に転倒対策をしていなかった事業所の16%が対策を行い、55%が何らかの対策を検討していると回答したそうです。
震災翌年の2012年に独立行政法人 福祉医療機構が行った調査によると、被災により事業継続を断念したというケースは2.3%に留まったとのこと。一方で、デイサービスなど在宅以外の介護事業所では建物が損傷したと回答したのは69.6%。事業所のライフラインが停止したのは87.0%だったとのこと。
参照元:東日本大震災への対応に関するアンケート結果概要│独立行政法人 福祉医療機構
東京商工リサーチの調査によると、東日本大震災の発生からおよそ12年が経過した2023年2月現在、震災関連倒産は累計2,019件に上ったとのこと。発生と同じ2011年の544件をピークに減少傾向となっていたものの、近年ではコロナ禍や物価高、人手不足などの要因が重なり、事業継続を断念するケースが目立ってきているとのこと。
参照元:東日本大震災から12年、震災関連倒産は累計2,019件に│東京商工リサーチ
いわゆる地震大国の日本。内閣府では公式HPにて、今後発生が予測されている大規模地震に関する概要を紹介しています。例えば「首都直下地震」はM7クラスの地震が30年以内に発生する確率は70%とのこと。また「南海トラフ地震」ではM8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率も同じく70%と紹介されています。
他にも「相模トラフ地震」や「中部圏・近畿圏直下型地震」などの発生が懸念されており、それこそ大規模地震はいつ発生してもおかしくないということが分かります。それゆえ、オフィスや企業は大震災が起きた場合を想定し、BCP(事業継続)対策を行っておくべきなのです。
地震が発生すると建物が壊れる危険があります。企業活動を行っている建物が全壊すれば、そこでの事業継続は不可能です。一部損壊であれば、事業を継続しながら再建することもできるでしょう。
倉庫や物流センターが被害を受けると、被害の範囲によっては大損害となることもあり得ます。従業員に被害が及んだ場合、重傷や死亡にいたることも考えられます。
人員が不足すると業務の一部がストップするかもしれません。病院や介護福祉施設では、人員の担当範囲によっては企業に大きな損害をもたらすこともあるでしょう。
地震によって道路が陥没したり、ヒビができたりすれば、道路の寸断や通行止め、渋滞などにより混乱が生じるでしょう。橋が落ちて通れない場合や、土砂で埋まって通れなくなることもあります。
運輸業では、いつものルートが使えず迂回するなど、物流に大きな影響がでます。会社や工事現場などにたどり着けず、通常より少ない稼働で混乱が起きるかもしれません。病院や福祉施設が孤立してしまうと、命の危険につながるので危険です。
地震が発生した際、通信センターやデータセンターが被災すると大きな影響を及ぼします。利用者が一気に増加すると、通信がパンクし、遅延が発生することもあります。
ITシステムを活用している会社は大打撃を受け、代替手段がなければ業務がストップするかもしれません。保険会社では顧客情報などが確認できず業務に支障がでます。商品などのデータが見られないと、物流や商社、建設、製造など多くの企業が被害を受けるでしょう。
地震が発生した際、自分自身の身の安全を確保することを第一とし、津波のリスクがある場合は早急に指定避難場所へ避難を開始しましょう。このときのルールを各社でしっかりと定めておくことで、従業員が自主的に行動できるようにします。
また、在宅が外出時に地震が発生したときのケースについてもあらかじめルール化しておくことが求められます。
地震によりインターネットやメール、電話などの通信手段が使用できなくなったときに備え、連絡手段についても決めておきましょう。
重要業務と目標復旧時間を決め、業務継続または業務普及に備えましょう。
重要業務の選定については、会社の売上や商品の納期、顧客へのサービス提供など総合的に判断しながら行います。
重要業務を選定したら、目標とする復旧期間を定めましょう。このとき、取引先からの要請がくることやライフラインの普及時間により左右してしまうことも考慮しておきましょう。
地震が生じて業務を普及するまでの目標期間を決め、非常時優先業務の分類を基に業務を進めていきます。
非常時優先業務は、以下のように分類しましょう。
防火・防災責任者を決め、担当区域内の業務指導・監督を行うようにしましょう。また、日ごろから自主検査チェック表などを用いて建物や火気使用設備器具、電気設備、危険物施設・消防用設備等・特殊消防用設備について確認することが大切です。
また、いざというときに避難経路がきちんと機能するよう、避難口や廊下、階段などに障害となる物品が置かれていないか、解錠はすぐに出来る状態か、床がすべりやすい、躓きやすい状態ではないかも確認しておくことが大切です。
更に、地震による収容物落下、転倒が起こらないよう点検しておくことも忘れてはいけません。 いざというときに従業員がスムーズに行動できるよう、ポスターやパンフレットなどを用いて周知に努め、定期的に防災訓練を実施するようにしましょう。
地震が起きたときに帰宅困難者が生じた場合に備え、3日分を目途とした非常食・飲料水などを用意しておくといいでしょう。
防災倉庫を設置することもおすすめです。また、防災倉庫の備品については時期を決めて定期的にチェックし、救護用品や救出機材などに破損や期限切れがないかを確認しましょう。
停電に備え、非常電源などを用意するのもおすすめです。
実際に大規模震災の被害を被った企業が、どのようなBCP(事業継続)対策を実践しているかは大いに参考になることでしょう。内閣府ではいくつかの事例を紹介していますので、ぜひご一読ください。
新潟県下にスーパーマーケットを22店舗展開していた同社では、2004年の新潟県中越地震に被災し、3店舗の閉鎖を余儀なくされたとのこと。その後「震災時においても店舗を開店する」という目標を掲げ、BCP(事業継続)対策を洗い出し。調達先リストの整備や緊急時の対応マニュアルの改訂、第二物流センターの設置や商品仕分け機への地震計連動緊急停止装置の設置などを行ったとのこと。結果、2007年の新潟県中越沖地震の際には、被災した7店舗のうち、当日に4店舗、翌日に2店舗、3日後に1店舗が営業再開できたという成果をもたらしたそうです。
2003年に震度5強の地震に見舞われ、工場の完全復旧まで1ヶ月の時間を要したとのこと。そうした教訓を踏まえ、震度6強の地震が発生しても、24時間以内に最低1つの生産ラインを稼働できるようにするという目標を設定。ソフト面では行動マニュアルの作成や緊急時の対応訓練などを実施。ハード面では初期微動を感知すると生産設備を停止するシステムを導入。それらの対策の甲斐あり、2008年に発生した震度5強の地震の際には致命的な被害は発生せず、4日後には生産ラインをフル稼働させることが出来たそうです。
新潟県柏崎市に所在し、自動車メーカー向けの鋳造金型の設計製作を手掛ける同社では、従来から設備の復旧マニュアルの作成や、社員間での情報共有、全社体制での勉強会の実施などに力を入れていたとのこと。そうした準備が功を奏し、2007年の新潟県中越沖地震にて震度6強の揺れに見舞われたものの、工作機械の点検整備を順調に進めることができ、被災翌日には生産を再開できたそうです。
岩手県に工場を要し、自動車の車両開発を手掛ける同社では、かねてより全役員が参加する危機管理委員会を常設しており、防災対策の立案や大規模震災に見舞われたことを想定した訓練などを実施していたとのこと。それゆえ、2008年の岩手・宮城内陸地震で震度6強の地震に見舞われたものの、地震発生の2時間後には本社対策本部を設置し、2時間半後には、岩手工場と本社間でTV会議システムを使用した対策会議を実施。発災6時間後には、バスで支援要員を被災地に急派する対応を行い、2日後には通常操業を再開できたそうです。
熊本県上益城郡にて1974年に設立。多様な業種24社で形成された熊本南工業団地協同組合は、平成28年の熊本地震にて、周辺の法面崩落や道路、水道管の被災、さらには各社の生産設備の損傷などにも見舞われたとのこと。
そうした状況のなか、同工業団地は様々な業種が集っていることを活かし、復旧に向けての情報収集や修繕の担当決めをスムーズに実施。その際に、古い図面しかなく水道管復旧に手間取った経験から、資料や図面のデジタル化にも力を入れるようになったそうです。加えて、協同組合での地震保険加入や資金融資の情報共有などの体制も整えられたとのこと。
参照元:取組事例 熊本南工業団地協同組合│独立行政法人 中小企業基盤整備機構
そもそも防災やBCP(事業継続)対策というものは、いくら入念に準備していても完璧ということはなく、いざ大地震に遭ってみて初めて、準備が足りなかったことに気づかされるということが往々にして起こります。それゆえ、常に過去事例や最新の情報などを把握し、適宜アップデートしていくことが不可欠なのです。
また実際に災害が発生した際には、「初動の速さ」が、その後の被害を減少できるか、拡大させてしまうかを大きく左右するとされています。そこで注目されているのが、企業向けの情報収集用の災害情報システムです。災害発生時に情報を素早く得ることができ、直ちに何を行うべきかを的確に判断する材料とすることができるとして、注目を集めています。ぜひ、下記リンク先をご覧になってみてください。